備長炭のコストは本当に高いのか、火持ちで比べる1日あたりの炭代
「炭代をもう少し抑えられないか」というご相談は、飲食店のお客様から特に多くいただくものの一つです。原材料費や光熱費が上がる中で、経費の見直しを迫られている店舗は少なくないでしょう。炭の単価表を見て、より安いものへの切り替えを検討されている方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、私たちが長年この仕事を続けてきて感じるのは、炭のコストは「1kgあたりの購入単価」だけでは測れないということです。火持ち、消費量、さらには料理の仕上がりや作業効率まで含めて考えると、見え方が変わってくることがあります。この記事では、炭のコストをどう捉えるべきか、現場での経験も交えながらお伝えしていきます。
単価の安さが実質コストの安さとは限らない
炭を選ぶ際、多くの方がまず目にするのは1kgあたりの価格ではないでしょうか。国産備長炭と輸入オガ炭を比べれば、単価の差は数倍になることもあります。この数字だけを見れば、「備長炭は高い」という印象を持つのは自然なことです。
しかし、炭には「火持ち」という特性があります。同じ1kgでも、何時間火力を維持できるかは炭の種類によって大きく異なるのです。火持ちが良ければ、営業中に継ぎ足す回数も減りますし、1日に消費する量も変わってきます。つまり、1kgあたりの単価が安くても、消費量が多ければトータルのコストは上がる可能性があるわけです。
私たちのお客様の中にも、「安い炭に変えたら、かえって炭代が増えた」という経験をされた方がいらっしゃいます。単価だけで判断した結果、消費量の増加がそれを上回ってしまったケースでした。
火持ちの違いが1日の消費量を左右する
では、実際にどの程度の差が出るのでしょうか。炭の種類や使用環境によって変わりますが、一つの目安をお伝えします。
紀州備長炭や土佐備長炭といった国産の白炭は、一般的に4時間から6時間程度の火持ちが期待できます。一方、安価なオガ炭や輸入炭の中には、2時間から3時間で火力が落ちてしまうものも珍しくありません。単純計算でも、同じ営業時間をカバーするのに必要な量が倍近く変わる可能性があるということです。
営業時間と回転率から考える
たとえば、ランチとディナーで計8時間営業する焼き鳥店を想定してみましょう。火持ち2時間の炭であれば、営業中に3回から4回は炭を継ぎ足す計算になります。火持ち5時間の炭なら、継ぎ足しは1回か2回で済むかもしれません。
継ぎ足しの回数が減るということは、単に炭の消費量が減るだけではありません。継ぎ足し作業にかかる時間と手間も軽減されます。ピークタイムに炭の様子を気にする頻度が減れば、その分お客様への対応や調理に集中できるでしょう。こうした作業効率の面も、見えにくいコストとして存在しています。
また、火力が安定しているかどうかも重要な要素です。火持ちの短い炭は、時間とともに火力が落ちやすい傾向があります。火力が不安定だと、焼き加減の調整が難しくなり、料理の品質にばらつきが出ることもあるのです。
現場で見てきた「安い炭」のコスト増要因
私たちがお客様とお話しする中で、安価な炭を使うことで発生しがちなコスト増要因をいくつか見てきました。
一つは、先ほど触れた消費量の増加です。火持ちが短いために継ぎ足し頻度が上がり、結果として月間の仕入れ量が増えてしまう。これは最も分かりやすいパターンでしょう。
もう一つは、爆跳(ばくちょう)によるロスです。品質の安定しない炭は、火をつけた際に破裂することがあります。爆跳が多いと、使える炭の量が目減りするだけでなく、安全面でのリスクも高まります。お客様の前で炭が跳ねるようでは、店の信頼にも関わってきます。
さらに、灰の量も意外と見落とされがちな要素です。品質の低い炭は灰が多く出る傾向があり、掃除の手間が増えるほか、灰が料理にかかるリスクも高まります。灰処理の頻度が上がれば、それも間接的なコストと言えるでしょう。
これらを総合すると、単価の差額分がそのまま節約になるとは限らないことが見えてきます。
自店に合った炭を見極める
ここまで読んで、「では備長炭を使えば必ず得になるのか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。正直に申し上げると、そう単純な話でもないのです。
大切なのは、自店の業態や調理スタイルに合った炭を選ぶことです。たとえば、短時間で強い火力が必要な業態であれば、火持ちよりも火力の立ち上がりを重視すべきかもしれません。逆に、じっくり焼き上げる料理が中心であれば、火持ちの良さが活きてきます。
また、同じ備長炭でも産地や等級によって特性は異なります。紀州備長炭は火力と火持ちのバランスに優れ、土佐備長炭は比較的リーズナブルながら安定した品質を持つといった違いがあります。さらに、黒炭やオガ炭にも、用途によっては適した場面があるのです。
結局のところ、炭選びに「絶対の正解」はありません。自店のメニュー、営業時間、客単価、回転率といった要素を踏まえて、トータルで判断することが求められます。
一つおすすめしているのは、まず少量から試してみることです。実際に自店の厨房で使ってみて、火持ちや火力、灰の量、作業のしやすさを確かめる。その上で、1日あたり、あるいは1週間あたりの消費量を計算してみると、実質コストが見えてきます。
炭選びで迷われることがあれば、業態やメニューに合わせたご提案もできますので、お気軽にご相談ください。現場で培ってきた経験から、お店に合った選択肢を一緒に考えていければと思います。
